青春は板と駒のように。

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第一話 Prologue

キンコンカン
割りと新し目のスピーカーから軽く乾いた無機質の音が教室に響く。
チャイムがPM5:30を告げると、眠く退屈な授業の全行程が終わり学生それぞれの生活がスタートする。
生徒の一人が閉めきってあった教室の窓を開ける、風がカーテンを舞い上げて気怠い授業の空気を束縛からの開放という爽やかな空気へと入れ替わっていくのが 感じられた。
学生たちは思い思いに自分たちの生活の準備を始める。
家に帰って再び退屈な勉強に勤しむもの、友だちと街に繰り出しショッピングや会話を楽しむもの、部活動に青春を見出し体力や才能を磨くもの。
人それぞれに時間の使い方が違う、その中で僕は黙々と帰宅の準備を始めた。
正直なところ僕には友だちが少ない、ぼっちとかそう言うのでは無いが、登下校を一緒にする親友や放課後を一緒に出かける友人などは居なかった。
活動的でない性格とライフワーク化している趣味が原因だと解釈している。
どんな趣味かというと高校生2年生にしてはわりと底辺な部類に入ると思うのだが、詳しく語ってる暇などはない一刻も早く家に帰りたいのだ。
そんなことで早々と帰宅準備を終え、教室絵を飛び出し家へと帰り、台所で家事をする母親に只今の挨拶もせず二階にある自分の部屋へと駆け上る。
母親がなにか言ったように聞こえたが、気にもとめず木製の扉に手をかけ開けると僕はぐるりと部屋を見渡した。
学校から自分の部屋に帰ってきたという感覚を確かめるためにである。
四畳半の部屋に、壁にくっつけ二重に重ねて配置した大きな白い本棚と本棚の反対側に設置したテレビ、その下にはある程度のものが入るようになっているテレ ビ台、後は窓際のベット、それが僕の部屋にあるもの全てだ。
洋服などは両親の寝室に配置されたタンスに入れさせてもらっている。
ベットにどすんとカバンを下ろしたら、僕の趣味の時間が始まる。
着替えは…まあ面倒なので後でしよう、テレビ台においてあったリモコンを手に取りテレビの電源を入れる。
テレビは40型のプラズマテレビだ、自主学習という学業を半年休んでバイトに勤しんだ成果である。
一応そこそこのであるのだが進学校ではあるのだが、何故だかバイトは禁止でない、校長が言うには社会で働くことも立派な勉学であるとのことだった。
そんな自慢のテレビだがテレビ番組を楽しむために購入したのではない、そもそもアンテナ線は繋がっていなかった。
テレビ台のガラス製の扉を開き白い色をしたコントローラーを取り出す、コントローラーの電源ボタンを長押しすると、ピコンと言う軽快な音とともにゲーム機 が起動した。
もうお分かりだと思うが僕の趣味はテレビゲーム、重度のゲーマーと言っても差し支えないし、ゲームをするために生きていると言っても過言ではない。
カチカチとゲーム起動の操作するとセクシー女の子が画面に現れた、ギャルゲーではないこの女の子がグロテスクなゾンビをバッタバッタとなぎ倒すアクション ゲームである。
昔はシンプルシリーズで2000円ほどで売られていたゲームだが次世代機に移行したことによってフルプライス価格のゲームへと昇華した作品だ。
ザクザクとゾンビを倒すと女の子は血まみれになっていく、それを見て僕はにやりと笑みを浮かべる、自分で言うのも何だが実に気持ち悪い。
暫くプレイに勤しんでいると一階に居る母親から声がかかった。

「ご飯できたから降りてらっしゃーい」


「…すぐに行くよ」


ゲームを一時停止し、コントローラーの真ん中のボタンを押と、画面の上に時計が表示される。

19:05
確か僕は18時には家に帰宅していたから約一時間ほどゲームをしていた、体感時間は15分ほどだったので時間を見て少しびっくりした。
すぐにゲーム機の電源を切り下に降りるために着替えをする。
ゲームのオートセーブ機能はある条件下では便利だ、普段は自分の任意のタイミングでセーブしたいし、強制的にデータが上書きされるのは嫌なのだが、こう いった急いでる時などでは素早くゲーム機の電源を落とすことができる。
若干汗をかいていたせいなのか、洗濯済みの清潔な洋服に着替えるとなんだか気持ちがいい、やはりゲームを始める前に着替えはするべきだなと思った。
階段をゆっくりと降りる、先ほど駆け上がった時には感じられなかった木製の階段のきしみが、足の裏をじわりと伝わってくる。
この家も相当古い、築何年経ってるかは分からないが、僕達家族がこの家を借りた時には既に年季の入った風貌をしていた記憶がある。
一回のリビングに着くと僕は母親に尋ねた。

「今日の晩御飯は何?」


「見ればわかるでしょ?」


母親は僕の顔も見ずにそっけなく返事をする。

確かに、テーブルに並べられているのはホカホカのご飯、鮮やかな緑色したレタスの上に置かれたハンバーグとわかめの味噌汁、後はゆで卵のサラダ。
それと珍しく父親の姿がそこにはあった。

「あれ?お父さん、こんな時間に早いね、お仕事速く終わったの?」


「ん、まぁ、そんなところだ」


父親はリビングにある椅子にどっかりと腰を落とし、新聞に目を通しながら答えた。

父親が帰ってきていたので、晩御飯のメニューに味噌汁があった様だ、いつも汁物は洋風なスープの類いなのだが父の嗜好で必ず和風お味噌汁にしてくれとの事 だった。
父はいわゆる仕事人間で朝早くに家を出て夜遅くに帰ってくる事のほうが多い、今月晩御飯を一緒に食べるのは初めてだった気がする。
母親も食卓に付き家族全員で「いただきます」の合図をし食べ始めた。
肉汁の滴るハンバーグを口に含み、ほかほか固めのご飯を頬張ると、胃袋が早急に食べ物を欲し、脳みそが飲み込む指令を出す。
あっという間にご飯茶碗一杯を平らげる、母親にお代わりの要求をして、待っている間にゆで卵に手を伸ばす、ゆで卵は何も付けずに食べるのが僕は好きだ、黄 身が固茹でにされているため口の中が乾く、急いで味噌汁を飲む、仄かに薫る磯の香りが口から鼻へ通り抜け、僕はふーっと息をつく。
母親の料理は単純なものが多いが、実に美味しい。
そんな食事が半分終わった所で父が徐に口を開いた。

「和馬、突然なんだが…」


和馬っていうのは僕の名前だ、因みに苗字は浅木、繋げると浅木和馬である。


「東北の方に転勤することになった」


「そう……え゛?」


ズズッと味噌汁をすする父親、飲み終えてフーっと息をつく、釣られて僕も味噌汁を飲む、正直ボクは味噌汁は飲み込めてもこの自体を飲み込めていない。


「いや、だからな父さん地方に転勤決まったから学校は転校してもらうことになる」


「ななななんだってー!!」


思わず味噌汁茶碗を落としてしまった、先ほど全て飲み干して中身は空だったため被害は無い。


「それと、もう編入手続きは終わってるから、明後日から東北F高校に通ってもらうからな」


「早いよ!早すぎるよ、友達とか挨拶もできないのかよ!」


「お前友達いないじゃんか」


「……………」


父さん…どうしてそんなに酷い言葉を息子に言えるのだろうか、確かに僕には親密な関係の友達などは居ないが、それでも少しは気遣ってくれてもいいはずなの だが。

ちくしょうめ。
この事件のようなものがきっかけで、テレビゲーム漬けの高校生活が変化するとはこの時はまだ夢にも思っていなかった。


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