青春は板と駒のように。

青春は板と駒のように。 第一話 Prologue-01へ
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次日 PM05:30 東北F高校
ギーンゴーンガーン
古めのスピーカーから内部のスピーカユニットが壊れているのではないかと思うほどの曇った音がクラスに響く。
チャイムが鳴るとクラスがドっと騒がしくなった。
もともと和気藹々としたクラスで、先生がいた時もそれ相応に騒がしかったが、それに輪をかけて五月蝿くなった。
私は高校二年生の近藤唯美(こんどうただみ)だ、クラスからは真面目ちゃんとか石頭とか散々な言われ方をされる。
厳格な祖父と警察官の父親から多大な影響を受け、清く正しく正面突破!の精神を心掛けてるせいかもしれない、いや間違いなくそれだ。
友達には「そんな生き方で楽しいの?」とか聞かれるけど、私は気にしない、だってそれが私にとって至極当然なことなのだから。
私はガタンと机から立ち上がる、勢い良く立ち上がったので、机から飛び出していた教科書の角に服を引っ掛け、Tシャツが少し捲れてお腹を晒す。
街の方にある高校には可愛いらしい制服があるのだが、街外れの我が校にはそんなものは無い。
お気に入りのために何度も着ていて少し色があせてしまったTシャツを素早く下ろす、それでもやはり恥ずかしくて顔が赤くなってしまった。

閑話休題

勢い良く立ち上がったのには理由がある、気合を込めるためだ、これから先生と血を血で洗う交渉を繰り広げなければいけない。
気持ちで負けたら勝てるものも勝てなくなってしまう、これはとあるところから来る経験談である。
私の立てた音に呼応するかのように、2人の女子生徒も席を立った。
一人目は原久美(はらくみ)、黒髪ロングのお嬢様系でしゃべり方もおっとりしている、今日の服装もフリルがいっぱい付いたふわふわした洋服で本当にお姫様 みたい、
しかし身長が152センチと小柄であるためにクラスでのニックネームは「小姫」である、因みに「小」を付けて呼ぶと怒られる。
しかし姫には少し裏の顔がある、良い意味でいうと策略家、悪い意味で言うと腹黒いのである。
今回の交渉も姫が裏で手を回してくれたおかげで実現している、私がいくら先生に言っても聞く耳すら持ってくれなかったのに…。
私ができないこと、やりたくないことを簡単にやってのけるので姫のことは凄く頼りにしている。
二人目は野沢凛(のざわりん)、長い髪を後ろで縛るいわゆるポニーテール、楽しいことが大好きでいつもクラスを盛り上げるムードメーカーだ。
ただ若干空気の読めない困り者、告白に失敗して落ち込んでる子の所に行き、振られた男の笑い話をした時は想像通り悲惨なことになった。
ただあまりにも楽しいことを優先し過ぎて、楽しくないことは後回しにする性質があり、テスト前とかによく私に泣きついてくる。
毎回説教するのだが、どうやら治る気配はない。
それでも私は凛は最高の友達だと感じる、必要なときにそばに居てくれるし、空気が読めないってのはいい意味で気持ちを切り替えさせてくれる。

「近藤さん」「唯美!」

二人が同時に名前を呼びながらこっちに来る、近づいた二人の顔をみて私は言う。

「姫、凛、私達の夢が叶う時が来たね」

二人の名前を呼ぶときに若干の力が入り、緊張感を醸しだしてしまった。

「ええ、ここまで来るの、結構大変だったんだから、絶対に成功させるわ」

それに影響されてか、姫の言葉にも若干の震えが感じられた。

「成功したら楽しいことになるね!もう楽しみで仕方ないよ」

もう交渉に成功した気でいる笑顔の凛に私達の緊張が溶ける、天然でこの効果なのだからやはりこいつは凄い。
緊張が解けたせいか姫の顔に笑みが戻る、とか言う私も笑みが溢れていた。
全員で「うん」頷いてから、職員室へと歩を進ませた。

ガラッ

「失礼します」

静かに職員室のドアを開け、そう言って職員室に入る。
どこかの映画やドラマのように勢い良くドアを開け放ち、「おい先生!覚悟はできてるな!?」などと言う事はけしてしない、できない。
少し職員室の様子が少しいつもと違う、私達が交渉に来ると全先生が知っており、緊張に包まれているのか!?とも思ったがそうでもなさそうだ。
この大事なときに変なことに巻き込まれてはたまらないので目立たないように行動する、迅速に目的の先生を見つけると、若干困った顔をしながら座ってこちら を見ていた。
静かに近づくと先生はため息一つ。

「ああ、お前達、やっぱり来たのか…」

「やっぱり来たって酷いですね、私達にとっては非常に大事なことなんです」

「ああ、わかってるさ、とりあえず話は聞こう」

私は少し言葉に間をおき、一度口の中で緊張という物質を歯を噛み締め磨り潰してから話しだした。

「新しい部活を作りたいんです、この学校って確かこういったことに寛大ですよね」

「ああ、うん、校長の方針でな…そうなんだが、お前らもう二年生だろ?そんなことやってる場合じゃないんじゃないか?」

先生として当然の回答、でも私はこんなことでは引き下がらない。

「私達は学校での時間を大事にしたいんです、もちろん勉強も大事ですが、この時期にしかできない事も十分大事じゃないですか」

「ああ、そうだな、どんな部を作りたいんだ?」

勉強よりも大事なこと、これから私達が告げる言葉では役不足な気がした、それでも私達はこれがどうしても学校に在学しているうちにやりたいのだ。

「それは…ボ…ド…ゲーム部です」

先生に向かっては、あまり胸を張って言えないため少しどもってしまった、気持ちで負けないつもりだったのに、これでは既にGAMEOVERと言う文字が頭 上に浮かんでいるではないか…。

「ゲーム部ってお前らなあ…、先生は反対だが…」

やはり賛同は得られない、先生が許可をくれなければ部活動は作れないのだ、先ほどどもってしまった自分を殴りたい、どもっていなくても結果は変わらなかっ たかもしれないのだが。
そんな気持ちの中で先生の話には続きがあった。

「校長からもうOKは出てるんだよ」

「え?」

負けを確信してた私には意外な言葉だったため少し面食らってしまう、今先生はなんと言ったんだ?

「やったぜ!」

「やりましたわ!」

親友二人の勝利宣言とも言える、歓喜の声で漸く私の頭が状況を理解する。

「やった…?…やったあ!」

言葉だけでは嬉しさが表現しきれずに、三人で飛び上がって喜ぶ、念願の夢がかなったのだ、職員室で大きな声を出して跳ねまわっても良いだろう。
しかし私達の喜びとは裏腹に先生の顔は一向に晴れない、喜び勇んでいる私達に「ゴホン」と咳払い一つ。
やはりこの喜び方は場違いだったのかもしれない、飛び上がるのを止め再び先生の方へ向き直り先生の言葉を待つ。

「お前ら喜ぶのは早いぞ、見たところ三人の様だが他に入る人はいるのか?三人では部活は作れないぞ」

喜びの感情が一変する、上げに上げて天国まで後少しという所からいきなり地獄へと突き落とされる、地獄の底にめり込んだ私達は俯いて、顔を上げることがで きなかった。
姫は策略家で実力者だが、本当のところはかなり詰めが甘い。
ボードゲームの勝負でも、序盤は着実に勝利へと準備して中盤に一気にひっくり返し終盤あと一歩のところで資源不足により負ける事が多いのだ。
現実でまで同じように負けるとは思いもしなかったが。
訪れる沈黙の間………

「あの」

誰かの声がする、聞いたところ男の人の声のようだ、声質が少しばかり男性にしては高いせいか私の耳にしっかりと届いていた。

「先生?それは四人いれば開設できるんですよね?僕が入りますよ」

どういうことなの?絶体絶命なこの状況で神の言葉と等しい「僕入りますよ」という発言は。
いったい誰なの?地獄の底から職員室を見上げる私達には神々しくて誰なのか分からない。
するすると私達のもとに蜘蛛の糸を垂らしてくれたこの男子校生さんに感謝です、感謝しきれないほど感謝です。
先生と男子高生がなにやら話をしてる、「しかし」とか「でも」とか色々聞こえてきたが、あまりにも唐突で気持ちが落ち着かず、彼の澄んだ声ですら今度は頭 に入ってこなかった。
暫くして、くるりと先生がこちらを向き口を開く。

「人数が大丈夫なようだから、開設していいぞ、この書類を書いて明日までに提出してくれ」

私が書類を受け取り、私達は職員室を出る。
最後に姫が職員室を出ようとした瞬間に先生が呼び止める。

「あっ!原!頼むから、先生通り越して校長先生に直談判するのは止めてくれ」

最初から困った笑みをしていたのはそういうことがあったためだったのか、ここまで勝利確定の布石をしておいて、さっきの絶望的な状況を作り出すとか姫は本 当に意味がわからない、もしや奴も天然という悪魔なのかもしれない。
姫が先生の方に振り向いて、いたずらな笑みを浮かべ舌をぺろっと出し、先生に何も言わず職員室を出た。
廊下の風が冷たくて気持ちいい、先ほどまでの空気は私達の熱気と絶望という冷気によって非常に乾いていた。
暫くして「失礼しました」と男子高校生が職員室から出てきた。
廊下には私達三人と男子高生一人、少し沈黙した後に男子高生が口を開いた、

「ごめん勝手に入るとか言って」

謝られる必要なんてこれっぽっちも無い、だって助かったのは私達の方なのだから。

「うん、いいの!本当にありがとう助かったよ」

私は御礼の言葉をかけた。
しかし少しだけ疑問が残る、この人は誰だろう?
この学校の全校生徒数はかなり少ない、一学年〜三学年のクラス各1つずつ、更に言うなら一クラス20人弱ほどしかいない、そのため六十人ほどの全校生徒の 顔を覚えるのは用意なのである。
姫の顔を見た、のほほんとニコニコしているが誰なのかは把握していないようだ。
凛の顔を見た、首をひねっている、ダメだこいつは全校生徒の顔を把握していない。
しかたなく私が尋ねる。

「えっと、どちら様?」

「あっ」という顔をした男子高生だったがすぐに言葉を紡ぐ。

「僕は明日からこの学校に転校してくることになった和馬って言います」

「転…校生、転校生!ああ、だから誰だかわからなかったんだ」

納得だ、知らなくて当然、向こうも私たちのことなんて知らない筈なのに、私達を助けるために部活に入ってくれるって凄いことだと思う。

「ゲーム好きなのー?」

軽く姫が尋ねる。

「はい、好きというか…お恥ずかしながらゲームが人生と言うべきか…いつもは一人でしているので、ゲーム部って憧れだったんです」

ん?一人で?一人二役プレイってことかな?あれ、これはもしかして…

「はは、一人でするなんて器用だねっ!ボードゲームは大人数でやってこそだよ」

「ボード?ゲーム?ぇテレビゲーム」

ああぁぁぁ!やっぱりかぁぁぁぁぁ!
勘違い、勘違いしてるよ!、テレビゲーム部だと思って加入しちゃったんだこれぇぇ。

「…やっぱり退ぶ」

「駄目ェェェ!!ボードゲームも楽しいよ、テレビゲームと同等!それ以上に、ねね、やろうよやろう、お願いだから退部とか言わないでぇぇぇ」

私の叫びが一階の廊下中に反響したのを感じた。

後から凛に聞いたのだがこの時の私はもの凄い顔をしていたそうだ、涙目で鼻を膨らませ絶叫する女とかもう終わってるよママン。
姫なんて直後大爆笑して蹲り、暫く動かなかったし…マジ本当に酷い、友達やめてやる。
凛はきっと色々な人に話しまくってるんだろうな…学校に行けなくなっちゃうよ、マジ空気読め。
男子高生も若干引いてたよなあれ…、ただ折れてくれて部活に参加するって言ってくれたから助かったんだけど、暫く恥ずかしくて顔上げて歩けないよ。
今は家で布団に顔をうずめながら、じたばたしてる。
でもいいの、明日からはバラ色のボドゲ生活!気分を変えなきゃね。
今日は疲れた、もう寝よう、忘れたいことがある時は眠るのが一番ってじっちゃんが言ってた。
電気の線に手を伸ばし、カチカチっと電気を消す。

「おやすみなさい」

誰に言ったわけでもないのだが寝る時のおまじない、一日も欠かしたことがないおまじない。
明日から楽しくなりそう、色々頭のなかで考えていたらいつの間にかに眠ってしまっていた。

一話 完



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