ていくへぶん〜見える少女〜10

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「おっと……」

 力を無くし倒れそうになる女の身体を優しく抱き留め椅子に座らせた。中身をなくした身体はほんの少しでも衝撃が加われば壊れる。
 それにしても……いいものが手に入ったもんだ。
 コレがあればもうクソどもに怯えながら逃げなくても、馬鹿どものご機嫌取りをしなくて済む。
 ここまで来るのは大変だった。記憶がないふりやら子供っぽい言葉遣いに動き。何が、

「ブクブクって膨らんでどかーん!」

 だよ……ガキでもこんなこと言わねぇって。
 まあ、そのおかげでイレギュラー中のイレギュラーが手に入ったんだ。素直に喜んでおくのが礼儀ってもんか。
 後は追っ手が来る前にやることやっとかねぇとな。


 ヤバイ…………
 さっきっから冷や汗が滝のように流れてブラウスを濡らす。
 まさかここに来て見失うなんてドジをやらかすなんて……
 こんな事課長にバレでもしたら、また始末書の山とお説教のコンボだよ……想像するだけで泣きそうになるけどグッ、と堪えセンサー感度を最大にして茉希 ちゃんの魄動(はくどう)を探す。
 魂にも人間で言うところの心音? のようなものがある。人間にも魂が入っているわけだから微弱なそれは出ていて、個別差があるから個体識別にはもってこ いな物。
 ただ、普段ならそんなの利用してまで識別なんてしないのだけど、探し物が探し物だからそうも言ってられなず、ディスプレイを注視する。
 恐らく、そう遠いところに行くはずがない。その直感に間違いなく見失った地点のすぐ近くに反応が見つかった。しかし。

「何……この反応」

 茉希ちゃんの魄動が跳ね上がって、魂と同等になったと思うと一瞬で文字通り消えた。こんな反応は初めて……なんだか胸騒ぎがしてならない。
 私はそこにマーカーを落とすと急ぎ向かう。
 そこはビルの谷間にできた空間で倒れている茉希ちゃんの姿があった。見た感じでは怪我もなく、ただ眠っているようではある。
 抱きかかえ、近くにあった椅子へ座らせてその顔を見ると、口元に魂喰らいの痕跡がしっかりとあった。濃さから見る限り付けられたのはそう時間は経ってい ないようだ。

「う……ん……」

「! 茉希ちゃん!? 大丈夫?」

「あれ……私……」

 目を覚ました彼女は頻りに辺りを見回した。その顔には不安が色濃く張り付いている。

「何があったの」

 身を案じて落ち着くのを待ったほうがいいのだろうけど、それを待っている間に逃げられるのは避けたかった。

「わかんない……誰かに襲われたって思ったら急に眠くなって……」

「どこに行ったかわかる?」

 茉希ちゃんは頷くと、壁の方を指差す。そこ確かに通った跡が残っていた。

「そう。わかった。あなたは帰りなさい。そして全部忘れた方がいい」

 襲われた時の恐怖が蘇ったのだろう、微かに震えながら頷く。
 魂喰らいが何かをした不安はあったが、それよりも今後の方が不安が募る。
 まさか私たちと意思疎通ができる人間を放っておくはずがないからだ。殺されはしないだろうけど……それなりに自分たちに利益のある決定を下すのは目に見 えている。
 でも私が心配したところでどうにかなる問題じゃないし。とにかく追いかけますか。それより……

「何のつもり?」

 振り向くと、抱きかかえた時にでも盗んだのだろう、私の腰に持っていたスタンロッドを構えた茉希ちゃんが今にも私に殴りかかろうとしているところだっ た。が、気がつかれたのをきっかけに振り下ろす。
 しかし、所詮はバレバレの攻撃。半身をずらすだけで避けてみせると、勢い余って転んでしまう。

「答えてもらってないからもう一回聞くけど、何のつもり?」

 立ち上がる背中に向けてもう一度問う。今度はすぐに答えが返って来た。

「ごめん……でも、イタ君を始末させたりなんてしない!」

「イタ君?」

 初めて聞く名詞を聞き返すと、

「さっき説明してくれたソウルイーターの事。遠くに行くまでは……」

 そう言ってきつく口を噤む。
 時間を稼ぐ腹積もりですか……まあ、それに付き合ってもいいですけど……

「三文芝居は止めときません?」

 私のこの言葉に茉希ちゃんは訝しむ表情を向けた。

「芝居? 何の事」

「いや、その言葉遣いですよ。本当の彼女ならそんな砕けた物の言い方をしないんじゃないかなって」

 溜息が溢れるのが聞こえた。勿論私のではなく、茉希ちゃん。の姿をした何者かの。

「バレてたか。どっちでもいいんだけどね。騙し切れるなんて思ってなかったし……でもこんなに早くバレてたとはな」

 表情が一転し、絶対にしないであろう下衆な表情を見せ、声も男のそれに変わる。

「短いやり取りでしたけどね」

 本当はそれだけじゃなくて、決定的な違いがあったんですが黙っておくことにした。不用意に情報を漏らすのはお馬鹿さんのすることですからね。

「さて、じゃあ大人しく捕まってくれますか?」

 一番波風立たず解決できる方法を提示した。さっさと片付けて本物の茉希ちゃんを探しに行かないと。

「はい。わかりました。何て言うわけねーだろ? 馬鹿か?」

 ですよね〜。そんな簡単に解決するなら苦労しないですもんね……なら。

「仕方ないですね。ふん縛りますか!」

 話している間に開放コード優先受信ラインを開き、コードを受信、インストール。発動させるためエンターを押し込んだ。



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