ていくへぶん〜見える少
女〜エピローグ
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エピローグ
あれから半年が過ぎました。何度か見えることも触れることもありましたが、それももう無くなりあの出来事は夢だったように思えます。
「ねね。一緒に帰りましょう」
「茉希ごめん。今日はアレと帰る約束しちゃって」
指差す方には帰り支度を整えたねねの彼氏さんが待っています。それなら仕方あありません。
「ごめんね。埋め合わせはするから」
「気にしないでください。また明日」
二人の羨ましい背中を見送って、わたしも帰ることにしました。
ですが、なんだかこのまま家に返ってしまうのはもったいないと思い少しふらついていると、いつかねねに連れて来られた占い屋さんの前に。
あの時のように悩みがある訳ではなかったのですが、なんとなく気になって扉をくぐります。そこは前に来た時と何も変わることがなく、ちょっとだけ安心し
ました。そして奥へ通されるとそこも変わらずテーブルと椅子があるだけです。
「いらっしゃい。久しぶりね」
「はい。またお話聞いてくれますか」
占い師さんはわたしのことを覚えてくれていて、招かれるまま椅子に座ると、前に来た時と同じカップに入った同じ紅茶が運ばれてきます。
占い師さんはそれを一口、口に含んだ後で言いました。
「あなた見えなくなったのね」
「はい」
思っていた通りの言葉かかけられました。
「それで、ちょっと寂しいとか思った?」
そう聞かれ、少し時間をかけて言葉を選びます。どの道嘘をついた所でお見通しなのですから。
「そう、ですね……初めの一ヶ月はポッカリと心に穴が開いた感じがしました。でも日をおうごとに少しづつ埋まっていって。気がつけばあれはわたしの妄想
だったんじゃないかなって思うようになりました」
「そう思えるならあなたはもう大丈夫ね。引きずられることもないでしょう」
「そうだといいんですが……」
忘れるべきなのでしょう。半年前のことを。でも忘れることができそうもありません。
「そうね。辛かったでしょう。好きになった人を……」
その一言にわたしは俯き、黙るしか出来ません。
今でも痛いのです。
痛くて、痛くて……
謝りたいのか、許しを得たいのかわかりませんが、もしもう一度会えるならば会いたい。そう思っています。
ですが、それも叶いません。
わたしにはそれができる力が無くなったのですから。
「でも、それはわたしがずっと背負って行かないといけないんだと思います。それが彼へのせめてもの償いなんじゃないかって」
「それもいいかもしれないけど、それをその彼は望むのかしらね。それよりは覚えていてくれるだけでいいんじゃない」
覚えているだけ――――
でもそこには必ずイタ君を殺してしまった痛みがついて回ります。
「ま、一夕一朝ではどうしようもないけど少しづつそうしていくといいわ」
「出来るでしょうか」
「ええ。あなたなら大丈夫」
何の根拠もない、他人が聞いたら気休めだと言うだろう『大丈夫』という言葉。なのにこの方が言うとどうしてそうだと信じられるのでしょう。
それから学校のことや恋愛だったりと方向の定まらないお話を時間ギリギリまでして、わたしは少しだけ軽くなった心を持って家に帰りました。
夕食も済み、お風呂も入って髪も乾かして、後は眠るだけ。ですがその前に明日の買い物の支度をしようとクローゼットを開けて服を物色していると奥の方に
クリーニングに出したままになっている服を見つけました。
開けてみると、あの時の服です。汚れもシミも全部綺麗になっていますが、今なお袖を通そうとは思えません。
(いつか着れるでしょうか……)
こみ上げてくる何かを仕舞うようにクローゼットへ押し込もうとした時、目の端に白い何かが引っかかりました。上着のポケットからです。
見ると、ポケットから何かが出ていてそれが電気の明かりに反射したようです。
なんだろうと出してみるとその正体は名刺で、『へヴンズカンパニー第三七一魂回収部タカツキ』と印刷されています。
驚きました。
もう見えなくなっただろうと。失くしてしまっただろうと思っていたのに……
「また、会えるのでしょうか」
何も見えなくなった夜空へ独言を放ちました。
それは願っても叶うことのない願い。
でも、また会えたならきっと。
そんな確信がありました。
ていくへぶん〜見える少女〜 了
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