あめ玉の願い

あめ玉の想いへ
小説置き場に戻る
トップページに戻る

　今はまだ――の代わりに――――
　そう言って私の手のひらの中に落とされたのは綺麗な包み紙に包まれた葡萄味のあめ玉で、「食べて」
　と言わんばかりに見つめる君の微笑みについに押し切られ、口に放り込んだ。
　いっぱいに広がる甘酸っぱさは大好きなんだけど……なんでかな。
　裏腹に切ない思いと一緒に涙が溢れてくる。
　そんな涙は絶対に君には見られたくなくて、背中を向ける。そんなことしたら余計に涙が零れるしきっと君も気になってしまうのは知っていたけど、こうする しか隠す方法を知らないからそうしてしまった……
　涙が零れるのはこれがキスの代わりだから？
　恋しい人との重なり合いじゃないから？
　なんで……今じゃ駄目なの……
　痛い……痛いよ……
　ちょっと強く噛み締めてしまったあめは、思いの外簡単に砕けてしまった。すると細かい欠片が頬に刺さる。その痛みが私の心の痛みを代弁しているみたい だ。
　そのむず痒さは今すぐ君に、今伝えられる、私がつむげる想いを全部尽くせるだけの言葉で送りたいって思いを募らせて。
　そして思いごとカラダごと走り出してしまいそうになる。きっと君は拒まないだろうってずるい確信もあるから余計に。
　違う。違う。駄目ダメだめ……そんなことじゃない。
　零れるものが悟られないようそっと君の方を見ると同じようにあめ玉を、薄い桜色をしたあめ玉をそっと、慈しむよう口に含む。
　おいしいって顔が綻んでいるのになんでだろう、少しだけ苦味を含んでなんでか辛そうにも見える。
　ああ、そうか私と――――
　ほっとしたり嬉しかったりしたけど、ちょっとだけ怒りたくもなった。私も君を拒む理由がこれっぽっちもなくて、今すぐにでも求めてくれたなら……でもそ んなこと君はしないし、私もきっと嬉しくない。

「ねえ、もう一個ちょうだい」

　さっきまでの思いを戒めるように、そんな妄想を振り払うようにお願いすると、

「ん。いーよ」

　ってあめ玉をもう一度私の手の中に落とす。
　君のポケットから出されたあめを頬張るとさっきと違う香りが、葡萄じゃない香りが私の気持ちを正しく止める。
　今度はゆっくり溶かそう。今はまだその時じゃないからちょっとの我慢。今はまだキスの代わりだけど、溶けきる頃には、きっと君と一緒に笑顔でいられるの だから。

あめ玉の想いへ
小説置き場に戻る
トップページに戻る inserted by FC2 system