ていくへぶん〜華麗(?)なる休日〜2
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出勤する必要も無くなり、お客さんをいつまでも玄関先に立たせておくのもアレだったから部屋に通す。
私の住んでいる部屋は会社の方で斡旋された独身者用のアパートで、リビングダイニングと寝室の二部屋だけ。それほど物珍しくない普通の間取りだと思うん
だけど、
「わあ……」
入ってすぐに聞こえたのは感嘆の声。横顔を盗み見ると瞳がキラキラと輝いている。
「すぐ着替えますから待ってて下さい」
「いえ、ゆっくりでいいですよ」
社長はそう言いながら物珍しそうに私の部屋の中を見渡している。食べ残しとか、お酒の缶とかは無かったはずだから大丈夫だったはずだけど何だかこそばゆ
かった。
あんまり他人を部屋に連れてきたこともない上に私自身、お休みの日以外はほぼ外食ってこともあってほんとにここは寝るためだけの部屋になっている。
「部屋着……どうしよう」
スーツとブラウスを脱ぎ去って、施したメイクを落とし切り、いつものスウェットに手をかけて思った。こんなボロいスウェットで社長の前に出るの気が引け
る。でも、それ以外に部屋着っぽいのって無いし……
「あっそうだ!」
確か年末のバーゲンか何かで買ったレギンスがあったはず。
探してみるとあっさり見つかって出してみた。これなら丁度いいだろう。後は重ね着でもすれば……
「これならだらしなくないでしょ」
鏡台の前で一回転してみる。変、じゃないよね。
よし。
寝室から出る前に少しだけ気合を入れる。と同時に疑問も浮かんだ。
さっき玄関で見た感じだとプライベートだとは思うんだけど、こんなペーペーの私のところなんかに何しにきたんだろう?
それにあの綺麗な秘書さんとか、SPもいないなんて……
まあいいか。何で来たのかぐらいは聞いたって。
「お待たせしました〜」
寝室の戸を開けてリビングに戻るとテレビの前に置いてあるテーブルの側にちょこんと座っていた。
「いいえ」
そういう顔はとっても生き生きとして見えたけど、少し興奮しすぎて疲れているようにも見えた。オフィスや社長室で見せた顔とはまた違って、『初めて見る
のものに囲まれて好奇心に溢れている』って感じ?
だから思わず、
「何か楽しいものでもありましたか?」
と聞いてしまう。すると、
「はい! 全部聞くのと見るのとでは違うんでビックリしてます!」
「はあ……」
聞くのと見るのって見たことないのかしら。
社長に収まってるんだからそれも当然か。うん。そう思うことにしよう。
「ところで、今日は何の御用ですか」
「はい」
変な納得をした所で切り出してみる。はぐらかされたりするんじゃないかって勘ぐったりもしたけど、それはいらない心配で。寧ろ言い出したことのほうがと
んでも無い事だった。
「大変突然で、不躾かと思いますが、タカツキさんがお休みの一週間だけこちらにお世話になりに参りました」
…………………………は?
社長はニコニコとしているが、私の心中は嵐が吹き荒れていた。まさか嘘だろうと。だから、
「えっと、確認しても構いませんか?」
「どうぞ」
「えっと、私今日から一週間お休みですよね?」
「はい」
「で、それに合わせて社長もお休み」
「はい」
「で、その間私の所にお泊りに来た、と」
「はい」
疑ってごめんなさい。でも、頭痛くなってきた……
こうなれば何を聞いた所で体制に影響はないし、何よりわからない。
「何で私のところなんですか? 社長だったらホテルのスイートルームとか、どこかのマンションでも買って住めるでしょうに」
「それは……」
押し黙ってしまった。話せない事と、話せる事を選んでいるようにも見える。
……話してくれるの待ってたらもっと面倒になりそうだわ。
「まあ、いいです。話せるようだったら話して下さいね」
そう直感して逃げ道を照らすと、ホッとしたのかどうかは定かじゃないけど、お腹が鳴る音が聞こえた。もちろん私のじゃなく。
音の主の方を見ると恥ずかしそうに顔を朱に染めて俯いている。ここは気付かないふりをするのがいいよね。
「そういえば私、朝ゴハンまだなんですよ」
「そ、そうなんですか。あたしもなんです」
「じゃあ、食べに行きましょう」
ついでに買い物もしとかないとね。
着替えは……いいか。こういう格好の子いっぱいいるし。
仕事用のバッグからお出かけ用のバッグに中身を移し替えて家を出る。何だか見られている気がするのは気のせいじゃないだろう。
だって、駐車場に見かけない車が停まっていて明らかに雰囲気の違うお姉さんとお兄さんがそれとなく私達の様子をうかがっているのだ。
まさか一人で歩かせるわけ無いと思っていたけど。
(後で差し入れでも持ってこうかな)
気が向いたらだけど。
「どちらまで行くんですか?」
「会社の近くなんですが、行きつけのお店があるんでそこに」
「そうですか。会社まではどうやって?」
「バスですよ。ああ、丁度来ましたね」
ほぼアパートの目の前にあるバス停に着くと丁度会社行きのバスが来て乗車口を開く。
「じゃあ行きましょう」
「はい!」
出勤の時間帯から離れて乗客のいないバスが私達二人を飲み込み走りだした。
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