ていくへぶん〜華麗(?)なる休日〜4

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「はいはい。楽しそうなところ悪いんだけど出来たから持って行ってちょうだい」

「ウィ。マスター」

 笑っていた顔が元の眠くてダルそうな顔に戻るとカウンターの反対側に戻って厨房から出された皿を私達の前に並べる。

「お待たせしました。今日のモーニングです」

 皿とボウルを並べ終えたコウが気取って言う。似合わないにも程があるがそれもお仕事のウチだから言いはしないけど。
 でも、いつ見てもマスターの作る料理はすごい。真っ白な皿を彩る料理達にいつも溜息がこぼれる。
 湯気を上げる綺麗なオムレツとカップに注がれたコンソメスープ。
 新鮮な野菜を食べやすいように整えたサラダ。
 こんがりと焼きあげられて香ばしい小麦の香りとその上で身を溶かしながら踊るバターの香りが混ざって蠱惑するトースト。
 これだけの香りと彩りを前にして我慢を強いられるのは拷問と大差ないでしょう。

「いただきます」

 自分がそう言い終わるのを待ちきれずフォークを手にしてオムレツへ突き立てて切る。中から出てきたのは湯気とバターの芳醇な香り。
 一口で食べられる程度をフォークの先へ乗せる。自分で作るとだらしなく固まりきらない卵液が垂れるかガッチガチに固まりきっちゃうけど、そんなことはな くてしっかりとフォークの上に身じろぎひとつせずに乗っかる。
 なのに口の中へ運ぶと半熟でとろける食感とたっぷりと入ったパルメザンチースの風味が広がって口とお腹の中を快感に誘う。

「たまんない……」

 きっとだらしないくらいに顔と口が綻んでいるんだろうけど、そんなの気にしない。て言うかそんなことを気にして美味しい物なんか食べられるわけがない。
 美味しさの勢いに任せてこのまま食べ進めるのもいいんだけど。
 トーストをポテトチップスの袋を開けるように左右に引くと、入っている切れ目から綺麗に半分に割れる。その片割れを同じようにもう一度引いて更に半分に してその上にサラダとオムレツを乗せて、ほんの少しだけケチャップ(もちろんマスターの手作り)を乗せて頬張ると、言葉を失う。
 なにか話してせっかくの余韻が逃げていくのがもったいないけど、

「ごちそうさまでした……」

 これは言わないといけない。すっかりと忘れていたけど、社長の方に視線を向けると私と同じみたいだけどその度合はまるで違うみたい。
 表情を見て思ったのは何だか恋焦がれるみたいな夢を見ているようにうっとりとした表情ってこと。

「どうだった?」

 と聞いてみても、

「はい……」

 と頷くばかり。それ程に衝撃的だったんだって思わされた。
 私も久しくそんな感じを味わっていない気がして寂しくなる……耐性がついちゃったってことなのだろう。
 ほぼ毎日ここで朝ゴハンしてるんだから当然といえば当然なんだけど。
 そう考えてる内にコウが手際よく食べ終わった食器を片付けて、それが終わるのとほぼ同時にコーヒーが出て来た。
 素敵な香りが駆け抜けると何かスイッチが入る気がする。

「タカツキちゃんはいつもだけど、ミカちゃんの食べっぷりもよかったわ」

 とっても嬉しそうに言うマスターとは裏腹に社長は視線を泳がせる。

「あんなはしたなく食べちゃって……」

「そんなことないよ? あんなに美味しそうに食べてくれるんだから冥利に尽きるわ」

「そんなものなのでしょうか」

「そんなものなのですよ。ガッチガチに緊張して、マナーで縛られすぎるんじゃ食べた気しないもの」

「そう、ですね」

 解脱でもしたようにスッキリとした笑顔を向ける。そこでこれから何をするかをだったり、世間話だったりをしてあっという間に時間は過ぎてもうすぐお昼。

「ごちそうさまでした」

「はい。またいらっしゃい」

 このままここでお昼っていうのも魅力的だったけど、うちの課長もここの常連だったりするから断念せざるを得ず退散。このまま部屋に帰ってもなぁーんにも することがないからブラブラとういんどうしょっぴんぐと洒落込むことに。

「何処か行きたい所あります?」

「そうですね……タカツキさんがいつも行ってるお店とかがいいです」

 Oh……そう来ますか……

「そんなんでいいんですか? つまんないですよ?」

「いいですよ」

 参ったな……服は量販店にしか行かないし、食材だって近所のスーパーだし、この時間じゃ居酒屋もやってないし……
 思いつくところは社長には似つかわしくないところばかり。でもそういうのが見たいんだろうからなぁ。そうだ!

「レンタルビデオ店行ってみます?」

「はい!」

 この提案はビンゴだったみたいで目を輝かせて返事をする。

「じゃあついでに夕飯の材料とかも買って行きましょう」

「あっ、それなんですけど……」

 何か提案があるらしい。

「今聞いたほうがいいですか」

「いいえ。帰ってからで大丈夫です」

 するとおもむろに私の手を握り、

「お姉ちゃん、いこ?」

 と手を引き歩き出す。

「そんな急がなくてもお店は逃げないよ」

 こうして一路レンタルビデオ店へ足を向けた。



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