ていくへぶん〜華麗(?)なる休日〜9

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「あ のさ」

 さっきのことについて聞いてみようか少し諌めようか迷いながら車の間その外を見る彼女に掛けた言葉は二の句が継げずに空中で霧散する。

 どうしてもそこまで踏み込んで聞いていいのかがわからないのが原因。でも、あの言いようとその後の小さな気遣いがどうしても気になる。っていうかとって も聞きたい!

 あの子との関係とか、関係とか……関係とか。

「はい?」

 そんな私の下世話なのを知らないままにこっちを向く彼女の顔は他のことに気を取られているのを伺わせる。だから私は、

「……着慣れない服着たし肩凝っちゃった」

 そう誤魔化す。

「ふふ。あたしもです。でも、もうすぐですから」

 それだけ言うとまた窓の外へ視線をめぐらして、今度は小さく溜息を吐く。

 やっぱり、言わないと、かな。

「……さっきの事。気にしてるんでしょ?」

 窓に映る顔に向けて言うと彼女の目は大きく見開かれた。図星で、恥かしいのも伝わってくるのがわかる。

「あ、答えなくていいよ。でも少しだけね」

 すると少しホッとして落ち着いたのか頷いた。

「さっきの言い方はよくないよ。ほんの少しだけでいいから最後に言ってあげたみたいに優しくしてあげなきゃ。確かにあの子にも非があるけどね」

 それだけ伝えて、ガラス越しで視線を絡ませる。そしてしばらくして視線を外すと私も外を眺める。ふりをして様子をうかがうと、ショックとまではいかない けどそれなりに思うところはあるようで安心した。

 やっぱり本人もどこかで感じていたんだろう。自分の彼に対する態度が最悪なことを。どうすればいいのかを聞いてくるのか、考えて考えて答えをだすの か……どちらにしろいい方に行きそう。

 しかし、母親の気分ってこういうものなのかな。私のお母さんも同じようにしてくれたのかな……

 全然覚えてないのがちょっと……ね。

 何分、覚えてないのだから仕方がないのだけど、ほんのりとそういう事をされてとっても嬉しかったような記憶があって、ふとした瞬間それが心の底から、埋 まっている記憶の泥の底から沸き上がってくる。

 だから、じゃないのだけれど、その度に辛いというか、切ないというか……

 何とも言い知れない気持ちになってしまう。

 そんな感傷に浸りかけたとき、いつの間にか止まった車のドアが開いた。


「ん〜……」

 こうやってお化粧を落として、お風呂でさっぱりして、着替えた自分の姿を鏡で見るとつい一時間くらい前のことが夢のように思える。ドレスを着ていた時の 自分姿と比べてしまうと何だかおかしくもあった。着るものとお化粧であれだけ別人になってしまうんだと。

 そうなると、毎日ほぼ同じ様なスーツだけどお化粧だけ変えれば印象が変わってくるんじゃ……と考えてしまう。

「それにしても……」

 ここに来るときに来ていた服がたった数時間でここまで着心地がいいものになってるなんて思わなかった。

 家で着た時も洗濯したてのものだったからこそわかる決定的な違い。そこら辺の量販店で買ったもののはずなのに肌触りは滑らかで絹みたいで、こころなしか 前よりも綺麗になってる気がする。

「おまたせしました」

 隣の部屋で着替えていたミカちゃんが来た。

 格好いいから可愛いにフォームチェンジした姿のギャップにキュン死してしまいそう。

「それじゃ行きましょう」

 言葉少なに車に急ぐ後ろ姿は、やっぱりさっきの事でなんだろう。

 誰だって言われたくないこととか、頭や心でわかってるけど行動に反映できなくてやきもきしてる所に突っ込まれるのは。

 結局車の中で言葉をかわすことはなく外を流れるテールランプと他の車とすれ違うときの風切音にタイヤがアスファルトを掴むロードノイズを音楽代わりにす るだけ。

 その内にアパートの前で車が停まり迎えに来た時のように敬々しいお辞儀と言葉を送られて車を見送る。

「ただいま」

「ただいまです」

 落ち着くなぁ。この生活感の漂う空気って。

 自室の扉の鍵を開けて真っ先にそう思った。いつも仕事で疲れて帰ってきた時と同じ気持で、流れてくる空気感を吸い込むだけで何だか安心できる。

 そこでやっと気が抜けたようで、今の今まで感じなかった緊張と疲れが一気に出てきて急に眠気が襲ってきた。

「ミカちゃん。ごめんね。眠いからDVD見るの明日にしよ?」

「うん……」

 ミカちゃんは既に船を漕ぎだし始まっていて放っておけばこの場で眠ってしまいそう。

 ああ、ミカちゃんの布団……いっか。

「よかったらベッド使って」

「おねえちゃんは何処で?」

「ソファで寝るよ」

 パジャマに着替えながら言うとミカちゃんはしっかりと私のパジャマの裾を掴み頑として言い放つ。

「ダメ。一緒に寝るの」

 と。しかし、私のベッドは間違いなくシングルサイズで、ふたりで寝ても収まりはするけど……

「狭いよ?」

「いいの! 一緒に寝るの!」

 そう言ってしっかと抱きついて離さない。それは床についてからも同じで、ガッチリと脚を絡めて、ぬいぐるみを抱きしめるように肩に手を回す。

 ちょっと熱くて寝苦しくなるかなと覚悟したけれど、疲れと眠気でそれどころじゃなく、あっという間に眠りに落ちた。


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