ていくへぶん〜見える少女〜13
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「どういう理屈で魂が破壊できるか知りたかったんだろうけど、それを確かめようにも抵抗されたもんだから全滅させちまった。で、どうにかしようって話に
なって山になった死体に残った残滓を繋ぎ合わせて俺が創られたって訳だ。ま、失敗作だった訳だけど」
「それじゃ戦争の理由は……」
想像の通り。
そんな表情で頷き返す。
頭が痛い。飲み込みきれない事態に飲まれて、知りたくもないことを知らされて……
気がついてしまえば処分させたくない理由なんてそれしかなくて、それはとんでもなく利己的な事。連れ帰ればきっと。なら本当は、
「あなた……もしかして死にたいんじゃない……?」
そうとしか思えず口をついて出た言葉。
すると目を大きく見開き、開いた口が塞がらないままになって『何コイツ』という顔になった後で急に笑いだし、
「イイとこ突くね! 逃げてる内はそう思ったよ! でもね」
バカ笑いする顔から一瞬でこの世の全てを吸い込んだような憎悪に染まった顔は当然思うだろうことを吐き出す。
「散々好き勝手やってくれた連中をボコらないと収まらなくってね……折角だから一番困ることをしてやろうってな」
復讐を志すのは当然……か。
連れ帰ると『研究』という名の実験と今まで以上の痛み、苦しみを受けるのは目に見えている。なら自決してしまうのが一番手っ取り早い復讐の方法なのだろ
う。だけど、魂喰らいはそれを是としなかった。ならば他の手段だけど……そうか。だから。
「だから茉希ちゃんの身体を欲した」
「そ。まあコイツを見つけたのは偶然で、こうしようって思ったのも突発的にだったんだけどね。しかしコイツの力を見たときは驚いたよ。別モンだって。俺な
んかよりずっと綺麗にしかも痕跡もなく魂を割りやがるし、魂魄の穢れまで落とす。似せるならもう少し上手くやって欲しかったよ……ま、そのおかげでこんな
に早く回復も出来たんだけどな」
そこまで強力なんだ……その力を直に見たことがない私にとっては魂喰らいからの口伝でしか一端を垣間見ることしかできないが、それが事実ならば先人たち
が恐れた理由が何となくわかる。
「でもあなたも私も生きている人間の身体を乗っ取るなんてことはできるわけがない! 現世で死んでいるのと同義な私達が魂と魂魄が無くなった肉体に入った
ところで弾かれるだけ」
「やり方一つでできるんだよ。教えはしないけど。さて、もういいでしょ? そろそろ俺の力になってもらおうか」
答えるはずないか……
覚悟を本気で決めてかかる時が来たようだ。
眩しい……
目を瞑っていようがいまいがお構いなく広がる漆黒の中で急に現れた眩しさにわたしは閉じた目を開かざるを得ませんでした。違いますね。目を閉じていた気
になっていたのかもしれないですし、本当に閉じていたのかもしれません。こんな所にいる以上どうでもいいのですが……
現れた光はどこかで触れたような光で、目の前まで降りてくると形を成していきます。
その姿は、
「タカツキ……さん?」
一番近くて、最近見た中に同じものを探すと浮かんだのは、見た目は何処にでもいそうなOLさんなのに他人には見えない、背中に白い翼を背負った人。でも
大きさは、手のひらに乗れそうなくらい小さくて、可愛いものです。
「なんでここに?」
ここがどこかわかりもしなかったけですけど、おいそれとやって来れる場所じゃないことはわかります。
「まあ、いろいろとね。あんまり時間がないから手短に言うけど、これから茉希ちゃん。あなたをここから出すから力を貸して?」
ここから出す――――
その言葉でやっぱりここは普通の所じゃない事が裏付けされます。でも、出れるとか出れないとか……どうでもいいんです。
「駄目です……わたしはあなたに嘘をついて黙ってたんです。イタ君のことを。それにやっていたことも……これはその報いなんですきっと。だからこのままで
いいんです」
そう。報い。
騙されたとは言え手を貸していたことには変わりがありません。これでわたしがいなくなればきっと全部が丸く収まるはずなんです。そうすれば罪滅ぼしにも
なるはずです。
ですが、タカツキさんは言います。
「報い、ね。それで満足? なら止めはしないけど、今もこうやって話して自分を確認できるのはなんで? 喰われたならもうとっくに意識なんて無くなって魂
喰らいのエネルギーになってるはずなんだけど」
「そう言われてもわかりませんよ……それに戻ってなんになるんです? こんな望んでもいないモノに振り回されて今みたいな事に嫌でも巻き込まれる! そん
なの……そんなの……!」
閉じた眼を見開いて光の、タカツキさんを見るとその姿は朽ち始めていて末端がボロボロと崩れ、光が失われた欠片が暗がりに同化していくのがわかります。
その様に絶句していると、
「ね? 言ったでしょう。魂喰らいの腹の中なんだから人が食事をすると胃腸で消化吸収するように同じことをするの」
と、笑いながら言います。
正対しているわたしは、タカツキさんが言う様に朽ちて崩れることのないままで、頭のてっぺんから爪先、踵の裏までしっかりと意識できます。
同化しきったと思っていたのが否定されたおかげでと言うか、否定されたせいと言うか……どちらにしろ意識できてしまった四肢はこの暗闇の中でも光って見
えるのです。
「でも、わたしがこれ以上何かすればもっと酷い事に……だから」
早く話を止めて静かにタカツキさんのよう朽ちて消えてしまいたい。その一心で理由になりそうなことを捲し立てたのは覚えてますが、何を言ったのかは全く
覚えていません。これだけ言えば諦めてくれるだろう。そう思っていました。ですが、
「それで? 私が助けるってことには変わりないんだから諦めて力貸して頂戴」
そう言って聞かないこの人には、どれだけの正当な理由を並べても変わらないんだと思わされました。彼女の何がそうさせるのかは知りません。ですが、そう
言い切るのですから乗ってみるのも悪くない気がしてきました。
ですが、それを躊躇わせるものがあるのも事実なのです。
「まだ踏ん切りつかない?」
「はい……」
当然です。罪を犯したわけですから罰を受けなくてはいけないのです。それがここでの消失だと思っていたので、戻ればどんなことが待っているかと想像する
と背筋がぞくっとするものがあります。
「わたしは、どうなるんでしょう」
「う〜ん……」
ですから聞いてみますが、唸るだけで返答がありません。
「わかんない」
待って、待って、待って出た返答はその一言。正直、呆れてしまいました。
「わか……そんな……」
明確に答えてしまうと色々と問題があって、言葉を探しているんだとばかり思っていたので肩透かしもいいところです。
「死にはしないけど……他に何があるかはちょっと私では答えられないの。決めるの私じゃないから」
「あぁ……下っ端ぽいですもんね」
「う……非道いなぁ。まあ、ホントのことだけど」
滑らせた口から出た言葉に怒るかなと心積もっていましたが、そう言いながら浮かべた自虐的な笑みがなんだか可笑しくて吹き出してしまいました。
「そんなに笑うことないでしょ!」
「す、すいません……」
そう言いながらしっかりと笑って、落ち着くとタカツキさんは真剣な眼差しをわたしに向けます。
「それじゃ、行きましょう」
「はい」
差し出された小さな手を取り握ります。
「そうだ。できたら、でいいんだけど」
「はい?」
「あなたが言うイタ君……魂喰らいを、その……」
何となく、言わんとしている事がわかります。
「捕まえるのに手を貸して欲しい……ですね」
苦い顔とともに沈黙が広がる。そして、タカツキさんは一つ頷いた。
本当は処理すると言いたいのだろうけど、わたしを慮って言ったんだってわかりました。
しかし、本当は処分するのでしょう……それ以外に方法はないのだろうかと思案してもそれ以上の事を思い浮かびません。それが決してこうされた事への復讐
とか恨みとかそんな負の感情からじゃなくて、止めたい、やめさせたい思いからなのですけど……
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