ていくへぶん〜見える少女〜17
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ディスプレイに回収完了の文字が踊る。これで茉希ちゃんの持っているものは無くなった……
嘘をついたのは少し気が引けるが社長からの依頼である以上は完遂しないと。
しかし、このデータは本当にこれは必要なんだろうか。まあ、下っ端な私がどうこう言ってところで持って来いって言われたんだから持って行かないと。宮仕
えの辛いところです。
でもお休みがもうすぐだから我慢我慢。
自分を慰めつつ帰路につく。
もうちょっと話してても良かったかなぁ。でもそうしちゃうともっと別れが辛くなるからあれぐらいがお互いに丁度いい具合でしょう。……多分。
会社の玄関で送迎車から降り立ちゲートを抜け、受付で身分証明を済ませ進むとエレベーターホールの案内パネル前に少女が一人パネルを見上げていた。
こんな所に一人で?
見た目は十二、三歳ぐらいの娘だったが匂わせる雰囲気は荘厳と呼んで差し支え無い。でも、それは勘違いだろう。
だって真っ白な肌にゴスロリ着てさらっさらでツヤツヤの腰まで伸びた黒髪をした娘がそんな雰囲気を出していたら折角の可愛い格好が台無しになっちゃう。
きっと気のせい。
でもあんな娘近くにいたらな〜。そしたら、あんな事とか、そんな事とか……
じゃなくて!
取り急ぎ受付まで戻り受付の娘にどういう事か問いただす。
「ね、ね、ね。エレベーターホールにいるあの娘入れちゃっていいの?」
「ん? ああ。あのか……っと。あの娘はいいの」
「ふーん……」
言い方が引っかかる。
この会社にはだれでも入れるわけではなく、社員しか受付を超えて奥に入る事ができないようになっている。
それは社員の家族にも言えることで、たとえ社員の誰の忘れ物を届けに来たとしても一階の受付前までしか入れないし、社員証を忘れた、紛失したなんてとき
は常務だろうと専務だろうとそれこそ社長でさえも入ることが出来ない。
それを無視して入ろうとすると屈強なお兄さまやお姉さまが漏れ無く警備室へ招いてくださる。
なのにあの娘はエレベータホールまで入っているし、受付の娘が言いかけてた事を言い直すってことは何かあるってことだ。
ま、気にしたって仕方ないか。さっさと報告書やら片付けないとね。また課長に叱られる。
エレベーターの呼び出しボタンを押し、上にあがっているエレベータが降りてくるのを待つ。その間も件の女の子はパネルを見上げている。
(ああ、もう!)
「どこに行くの?」
あまりにもパネルを見上げているのが気になって声をかけると、
「え?」
と言いたげな表情を浮かべて私を見上げた。
それでも何も答えてくれなかったので、視線を合わせるように屈んでもう一度、
「どこに行くの?」
と問うと、
「第三七一魂回収部に」
そうしっかりとした声で答えてくれた。
「そっか……あなたも関係者だったんだ」
人員も、部署の数も、規模もとんでもなくデカい会社だし実のところ見た目と年齢は関係なかったりする。現に今の社長はとんでもなく若いって話らしい。
らしいっていうのは、あったことがなくてそういう噂を聞いたからだってことなんだけど……眉唾ものだなってのが本音だったりする。
見た目と歳が食い違っているのはここじゃ当然だから有り得なくもないんだけど見てみないことには何とも……
するとエレベーターが降りてきて扉が開くと、中から三十人程だろうか全員がお揃いの真っ黒なスーツを着込んでこれまた揃いのサングラス型のディスプレイ
を掛けた男女が、装備一式が入ったアタッシュケースを下げた物騒な連中を吐き出す。
おそらく戦闘部の連中だろう。関わらないほうが見のためだ。
それが見えなくなるのを待ってから二人でエレベーターに乗り込み第三七一魂回収部のある階層まで駆け上がる。
その間、会話もなく、その取っ掛かりですら掴めないままエレベーターは目的の階層まで駆け上り扉を開く。
「こっちだよ」
少女の手を引いてオフィスへ入ると、まだあの大穴は塞がっておらず誤魔化す程度に板が打ち付けてあった。
「課長〜戻りました〜」
「よし。報告書だせ。一時間以内な」
相変わらずご無体な……あ、そうだった。
「そんなことより課長。この娘ここに用があるみたいなんですが聞いてません?」
「聞いてないが……!」
この娘を見た途端に課長の顔色が変わる。
「しゃちょう……」
何かの聞き間違いだろうか? 課長はこの娘を見て社長と言った気がした。
「冗談ですよね。この娘が社長なんて……」
すると目の前に一枚の名刺が差し出された。
「どうぞ」
「ああ、これはどうも」
差し出された名刺を受け取り見ると、この娘の顔写真と共に『ヘブンズカンパニー代表取締役社長』との肩書きとミカエルという名が刻まれていた。
「……マジですか」
絶対に引きつった顔と裏返った声で聞いた事に自称社長は、
「マジです」
とはにかんだ。
ああっ。可愛すぎ……持って帰りたい……
「すすすすすすすいません! 部下がご無礼をしたようで! ほら! お前も謝れ!」
恥じらう様がとっても可愛らしくてハートを撃ち抜かれたのに課長の焦った声で台無しになっちゃった。
「あ、えっと、す、すいませぅぁ!」
課長に思いっきり後頭部を捕まれ強引に頭を下に押し込まれた。
ぎゅうぎゅうと押し込まれて腰や背筋がとんでもなく痛い。
「そういうのはやめてください。お忍びみたいなものなんで。それにさっきタカツキさんに助けられましたし」
エレベータから降りてきた戦闘部っぽい連中は社長のSPだったのだろう。あんなに沢山常時いたんじゃ息も詰まるだろう。
しかし課長。いつまでも『信じられん』って顔で私を見るのをやめて欲しいんですが……まあ、課長は放っておくとして。
「何故SPを巻いてまでここにいらしたんですか」
「ええ。個人的にですがお礼がしたくて」
「お礼?」
「はい。救っていただいてありがとうございます」
救った。死を迎えるのが救いだった。の、だろうか。
「それは私がやったんじゃ……」
「知っています。アレのオリジナルとでも言うべき力の持ち主のおかげだと言うことも。ですが、言わせてください」
そして、社長は頭を下げた。
それをそっくりそのまま受け取るのには抵抗があった。実際のところ私一人ではどうしようもなかったのだから。
「あと、もう二つだけお願いしたいのですが構わないですか?」
まあそれぐらいなら構わない……
「ですよね? 課長」
まだ呆けている課長に確認をとると二つ返事で快諾してくれた。
断られるんじゃないかと不安があったのだろう。よかったと安堵を顔に浮かべ『お願い』を口にする。
「これから技術部部長と会っていただきたいんです」
「それが……お願いですか?」
「はい。忙しいとは思いますが……お願いします」
ちょっと拍子抜けだった。切羽詰まった感じがひしひしと伝わってくるものだからとんでもないことだと思っていたのに。
と、思っていたのはエレベータに乗り込むまでだった。二人だけになったのを見計らって言った二つ目のお願いは、この会社に入ってから一番の出来事になる
予感しかしない。
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